先日、Instagramで、とある発信者が「コスパ」という切り口で、購入した洋服を紹介しているショート動画が流れてきました。「この値段には見えない」「似たようなものが、もっと安く買える」。画面の向こうでは、見た目と値段を比べながら、その服がいかにお得なのかが語られていました。
自分の好きなデザインの洋服が、手の届く値段で見つけられるのは嬉しいこと。毎月の決まった支払いを済ませたあとにも、おしゃれを楽しむ余地は残しておきたい。暮らしに余裕を持ちにくいなかで、限られた予算でも好きなものを選べるようにしてくれる情報が、多くの人に必要とされることは、私にもよくわかります。
それでも、私はなぜだか無性にモヤモヤしてしまいました。もし、その安さが、誰かの仕事に十分なお金を払わないことで成り立っているのだとしたら。消費者として安さに助けられている私たちも、働いてお金を受け取る側としては、自分の仕事に見合う対価を受け取りたい。その気持ちは、その服を作る人にとっても同じではないでしょうか。
もちろん、値段を比べるだけでは、その服を作る人の仕事がどう扱われているのかは見えてきません。素材や製造国がわかっても、そこで働く人がどのように扱われているかまで、わかるとは限らないし、高い服を買うことで、その背景への安心まで買えるとも限りません。
物がどのように作られ、買われ、そして捨てられていくのか。あの動画を見て感じたモヤモヤをきっかけに、私たちの消費の先にある、まだ見えていない景色について、改めて考えてみたいと思いました。
⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝
中里唯馬さんは、CHANELやDIORなどが並ぶ最高峰の舞台「パリ・オートクチュール・ファッションウィーク」に、日本人として史上2人目の公式ゲストデザイナーに選出されたデザイナーです。
そんな、世界のファッション業界を牽引する1人でもある唯馬さんは、2023年春夏のパリ・オートクチュール・ウィークで発表したコレクション「INHERIT」において、「服の墓場」とも呼ばれるケニアの巨大なゴミ山を訪れた経験と、現地の人々が受け継いできた伝統的な装いや装飾から得た着想を作品へと昇華させました。
唯馬さんが実際にケニアに足を運び、現地の環境や、そこで暮らす人々の労働の実態を目の当たりにして葛藤し、そして新たなコレクションを発表するまでの様子に迫ったドキュメンタリー映画「燃えるドレスを紡いで」では、ゴミ山で廃棄物を集めて生活費を得る少年をはじめ、大量の廃棄衣類の処理に追われる人々の生活がありありと映し出されています。
唯馬さんは、現地でこれ以上新しい服はいらないと告げられたことを、インタビューでも振り返っています。半年ごとに新作を発表する「コレクション」という仕組みは、それまでの服を「古いもの」にし、新たな消費を促す。自分自身もその仕組みのど真ん中で服を作り続けている。そうした葛藤のなかで、これ以上、人類は衣服を作る必要がないのではないかという考えにまで至ります。
しかしその一方で、深刻な水不足のなかでも、鮮やかな布や手作りのビーズの装飾品を身につけて生きているケニアの人々との関わりを通して、過酷な環境でも人は装いに装飾を必要とすることに心を動かされます。「表現すること」や「生み出すこと」の意義を否定せず、それを礎として、コレクション「INHERIT」の制作へと向かいました。
こうした現実を知り、葛藤を経て生み出すコレクションだからこそ、その問いに応えるアプローチが求められました。唯馬さんは、ケニアから持ち帰った古着を新たな素材へと再生するなど、服を生み出す方法そのものを模索します。
何かを生み出すことまで否定しない。だからこそ、どのように生み出すのかを考える。その葛藤が、唯馬さんの新たなファッションへの関わり方につながったのです。
⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝
映画では、服を作る人だけでなく、ファッション業界で働く人自身が抱える葛藤も描かれています。ケニア北部のトゥルカナ出身で、ハイファッションモデルとして活躍するアジュマ・ナサンヤナさんが語るのは、自分が働くファッション産業と、故郷で暮らす家族が直面する問題との間にある矛盾でした。

自分自身の生活を支えている仕事が、大切な人たちの暮らしを脅かしている。その現実を前にして、ファッションを作ることについても、そこで働くことについても、単純に善悪で語ることはできません。彼女の抱える葛藤と、私が日々の買い物で感じる迷いは同じではありません。それでも、理想と現実の間で、いつも思い通りの選択ができるわけではないということは、自分自身の暮らしを振り返っても感じます。
岐阜での稲刈り作業で軍手と長靴が必要になった時には真っ先に100均に行ったし、帰る日程を決めずに行った大阪の友人宅の滞在が思った以上に長くなって部屋着が必要になった時は、コンビニで適当なパンツを買いました。(そのパンツは「汚れてもいい服」として、岐阜の稲刈りの時に活躍したけれど…)
こうした、急にものが必要になる時ですら、「長く愛用できるものを選ばなければ」と考え始めると、正直、息苦しさを感じます。こんな記事を書いている私自身も、Instagramでたまたま見かけた動画に怒ったり、さまざまな社会問題について問いを立てたりしながら、結局のところ、この社会の中で暮らし、消費している一人です。
⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝
仕事を辞め、これからどう生きていくか悩んでいた2年前。突然入った収録のアポイントに向かう前、SEASONでTALANTOのHug Ringを買いました。
アクセサリーは、生きるために絶対に必要なものではないけれど、あの日からずっと小指を抱きしめてくれているそのリングを見ると、作り手のRikoちゃんと、それを届けてくれたMaruちゃんの顔が浮かんできます。どんな環境に置かれていても、友人たちと一緒にいるときのような、自然な自分に少しだけ戻れるような。あの日買ったリングは、今でも私のお守りです。
#2「日常の糸が切れないように」では、非常時にこそ必要になる、日常の安心を支えてくれるものについて書きました。私は、毎日の生活を「生きるために切実なもの」ばかりで埋め尽くしたくありません。この目まぐるしい生活の中で、いつだって正しい買い物ができるわけでもない。必要なものを買うたびに立ち止まる余裕もない。自分の生活だって小さくしたくない。
でも、だからって。だからこそ。矛盾だらけで最悪だけど、私たちの選択によって、誰かの生活が小さくされていることも、絶対に当たり前にしたくないと心から思います。
こんなねじれた社会のなかで、私たちは、矛盾とときめきごと「社会問題」を着ています。何を選び、どう消費するのか。そして今、私たちは一体何を着ているのか。矛盾を抱え、問い続けながら、できる限り、自分らしく楽しんで暮らしたいと思います。
2026.1o.18
濠うか
濠うか
⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝ ⸝
【参考文献】
・厚生労働省|「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r07/25cr/25cr.html
・厚生労働省|「2024年 国民生活基礎調査の概況:各種世帯の所得等の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa24/dl/03.pdf
・YUIMA NAKAZATO|“COUTURE SPRING/SUMMER 2023 [INHERIT]”
https://www.yuimanakazato.com/collection/couture_ss2023.html
・映画『燃えるドレスを紡いで』公式サイト
https://dust-to-dust.jp/
・nippon.com|「映画『燃えるドレスを紡いで』:地球にとってファッション産業は害か? デザイナー中里唯馬が考える衣服の未来」
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c030267/
・ELLE|「衣服のゴミ山からドレスをつくる|映画『燃えるドレスを紡いで』で中里唯馬が照らすファッションの未来」
https://www.elle.com/jp/fashion/fashion-column/a60495000/yuimanakazato-movie-sustainablefashion-240412-hns/
・セイコーエプソン株式会社|「YUIMA NAKAZATOによる、古着からアップサイクルした新コレクション制作をサポート」
https://corporate.epson/ja/news/2023/230126.html
Store
Blog
Press
Archive
How to Value
Handmade One by One
Pre-loved Materials
Fairtrade
One and Only
1% for UNCEF
Contact
About
Terms and Conditions
Seller: Maruko Hirae
Address: We are committed to disclose to the disclosure request without delay as a matter of principle.
Phone: +81-80-1770-9979
Privacy Policy
We keep customer's personal information correctly and to prevent from unauthorized access, loss, damage, manipulation, and leakage, we maintain a security system, and supervise personal information.
- Purpose of use
We use customer's information to send shop information or the answers to customer's questions.- Prohibit to provide information for a third person.
We supervise customer's information and do not provide them to a third person except for those cases below;
. When we have a permission from customers.
. When we need to provide those information to traders to perform our job which was ordered from customers.
. When we need to provide them under the law.- Safety
We take measures to protect customer's personal information safely.- Customer Identity Verification
If customer wish to verify, modify, or delete, we will accept to do it after we verify customer identity.- Follow and review laws, and rules. We follow Japan's law that applies to personal information we have, and we will always check and improve this policy.
- Inquiry
Please contact us if you have an inquiry about privacy policy.
seasonprose@gmail.com








